人だと思つて、近づいたのは、僕の誤りでした。僕に、下さつた貴女《あなた》の愛の言葉を、貴女の真実だと思つたのが、僕の誤りでした。真実の愛を以て、貴女の真実な愛を購ふことが出来ると思つたのは、僕の間違《まちがひ》でした。奥さん! 貴女は、あらゆる手段や甘言で、僕を誘惑して置きながら、僕が堪らなくなつて、結婚を申し込むと、それを恐ろしい侮辱で、突き返したのです。此恨みは、屹度《きつと》晴らしますから、覚えてゐて下さい。覚えてゐて下さい。」
青年は、狂つたやうに、瑠璃子を罵りつゞけた。
瑠璃子は、青年の罵倒を、冷然と聞き流してゐたが、青年の声が、漸く絶えた頃に、やつと口を開いた。
「青木さん! 貴君《あなた》のやうに、さう怒るものぢやなくつてよ。妾《わたし》の貴君に対する愛が、丸切り嘘だと云ふのは、余りヒドいと思ひますわ。妾《わたし》が、貴君を愛してゐることは本当ですわ。たゞ、その愛は夫に対するやうな愛ではなくて、弟に対するやうな愛なのです。妾《わたし》、昨日今日考へて、やつとそれが分つたのです。妾《わたし》、貴君を弟に持ちたいと思ふわ。が、貴君を夫にしようとは、夢にも思つたことはないわ
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