さん、貴女《あなた》には、お話《はなし》しなかつたけれども、妾《わたし》青木さんから、一昨日の晩、突然結婚の申込を受けたのです。さうして、それに対する諾否のお返事を、今晩しようと云ふお約束をしたのです。結婚の申込を直接受けたことを、妾《わたし》本当に心苦しく思つてゐるのです。せめて、お返事をするとき丈《だけ》でも貴女《あなた》に立ち合つていただきたいと思ひましたの。」
美奈子は、何と返事をしてよいか、皆目分らなかつた。たゞ、彼女にも、ボンヤリ分つたことは、美奈子が母と青年の密語を、立ち聴きしたことを、母が気付いてゐると云ふことだつた。美奈子が、居堪《ゐたゝ》まれなくなつて逃げ出したときの後姿を、母が気付いたに違ひないと云ふことだつた。
さう思ふと、自分の心持が、明敏な母に、すつかり悟られてゐるやうに思はれて、美奈子は一言も返事をすることさへ出来なかつた。
青年の顔は、真蒼になつてゐた。眼ばかりが、爛々と暗《やみ》の中に光つてゐた。
「ねえ! 青木さん。それでは、よく心を落ち着けて聴いて下さいませ! 妾《わたし》、あの、大変お気の毒ではございますけれども、よく/\考へて見ましたとこ
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