なくなりますわ。まあ! 坐つてお話しなさいませ。妾《わたし》、今夜はよくお話したいと思ひますから。」
 瑠璃子の態度は、水の如く冷たく澄んでゐた。たしなめ[#「たしなめ」に傍点]られて、青年は不承々々に元の席に復したが、彼の興奮は容易には去らない。彼は火のやうに、熱い息を吐いてゐた。
「坐ります。坐ります。が、あのお話を、今|茲《こゝ》でなさるなんて、あんまりではありませんか。あれは、僕|丈《だけ》の私事です。私事的《プライヴェート》な事です。それを今茲でお話しになるなんて、あんまりではありませんか。あの晩、僕が何と申上げたのです。あの晩申上げた事を、貴女は覚えてゐて下さらないのですか。」
 青年は、美奈子が聴いてゐることなどは、もう介意《かま》つてゐられないやうに、熱狂して来た。
 美奈子は、真中でぢつと聴いてゐるのに堪へられなくなつて来た。彼女は、勇気を鼓舞しながら、口を開いた。
「あのう、お母様! 妾《わたくし》は一寸失礼させていたゞきたいと思ひますわ。お話が、お済みになつた頃に帰つて参りますから。」
 美奈子は、皮肉でなく真面目にさう云はずにはゐられなかつた。
 溺れる者は、藁
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