た。冗談を云つてゐるのでもなければ、揶揄《からか》つてゐるのでもなければ、じら[#「じら」に傍点]してゐるのでもなかつた。彼女も、今夜は別人のやうに真面目であつた。
「忘れる? 一昨日の晩!」青年は首を傾げる様子をした。が、彼の態度は如何にも苦しさうであつた。「僕には、ちつとも解りません。一昨日の晩、僕が何か申上げたでせうか。」
青年の声は、わな/\と顫へた。彼はその言葉を、瑠璃子に投げ付けるやうに云つた。
が、その投げ付けたつもりの言葉の裡に、みじめ[#「みじめ」に傍点]な哀願の調子が、アリ/\と響いてゐた。
青年の哀願の調子を跳ね付けるやうに、瑠璃子の言葉は、冷たく無情だつた。
「一昨日の晩のお話のお返事を、妾《わたし》今夜致さうと思ひますの。」
風が、少し出た故《せゐ》だらう、冷たい噴水の飛沫が三人の上に降りかゝつて来た。
三
瑠璃子の言葉は、これから判決文を読み上げようとする裁判長の言葉のやうに、峻厳であつた。
青年は瑠璃子の言葉を聴くと、もう黙つてはゐられなかつた。『抜く抜く』と云ふ冗談が、本当の白刃になつたやうに、彼はもうそれを真正面から受止
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