して、自分を隔てゝ母と青年とが、何だかわだかまりのある話をし始めたので、彼女は可なり当惑した。が、彼女にも母が、一体何を話し出すのか皆目見当が付かなかつた。
「お忘れになつたの。先夜のお話ですよ。」
 瑠璃子の声は、冗談などを少しも意味してゐないやうな真面目だつた。
「先夜つて、何時のことです。」青年の声が、だん/\緊張した。
「お忘れになつたの? 一昨日《をとゝひ》の晩のことですよ。」
 青年が色を変へて駭いたことが、美奈子にもハツキリと感ぜられた。美奈子でさへ、あまりの駭きのために、胸が潰れてしまつた。母は、果して一昨日の夜のことを、美奈子の前で話さうとしてゐるのかしら、さう思つた丈《だけ》で、美奈子の心は戦《をのゝ》いた。
「一昨日の晩!」青年の声は、必死であつた。彼は一生懸命の努力で続けて云つた。
「一昨日の晩? 何か特別に貴女《あなた》とお話をしたでせうか。」
 必死に、逃路《にげみち》を求めてゐるやうな青年の様子が、可なり悲惨だつた。美奈子は、他人事ならず、胸が張り裂けるばかりに、母が何と云ひ出すかと待つてゐた。
「お忘れになつたの。」
 瑠璃子は、静《しづか》に冷たく云つ
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