ことが、彼にとつては、何よりの打撃であつたのだ。彼が楽しんでゐる筈はなかつた。
 瑠璃子も、最初は二人を促して、散歩に出たのであつたが、玄関で紳士に逢つてからは、隠し切れぬ暗い翳が、彼女の美しい顔の何処かに潜んでゐるやうだつた。
 夜の箱根の緑の暗《やみ》を、明るい頭光《ヘッドライト》を照しながら、電車は静かな山腹の空気を顫《ふるは》して、轟々と走りつゞけたかと思ふと直ぐ終点の強羅に着いてゐた。
 電車を去つてから、可なり勾配の急な坂を二三町上ると、もう強羅公園の表門に来た。
 電車が、強羅まで開通してからは、急に別荘の数が増し、今年の避暑客は可なり多いらしかつた。
 公園の表門の突き当りにある西洋料理店《レストラン》の窓から、明るい光が洩れ、玉を突いてゐるらしい避暑客の高笑ひが、絶え間なく聞えてゐた。
 夜の公園にも、涼を求めてゐるらしい人影が、彼方《かなた》にも此方《こなた》にもチラホラ見えた。

        二

 三人は、西洋料理店《レストラン》の左から、コンクリートで堅めた水泳場の傍《かたはら》を通つて、段々上の方に登つて行つた。
 公園は、山の傾斜に作られた洋風の庭園で
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