「往きと帰りは、電車にしませうね。歩くと大変だから。」
瑠璃子は、さう云ひながら、一番に部屋を出た。青年も美奈子も、黙つてそれに続いた。
三人が、ホテルの玄関に出て、ボーイに送られながら、その階段を降りようとしたときだつた。暮れなやむ夏の夕暮のまだほの明るい暗《やみ》を、煌々たる頭光《ヘッドライト》で、照し分けながら、一台の自動車が、烈しい勢で駈け込んで来た。
美奈子は、塔の沢か湯本あたりから、上つて来た外人客であらうと思つたので、あまり注意もしなかつた。
が、美奈子と一緒に歩いてゐた母は、自動車の中から、立ち現はれた人を見ると、急に立ち竦んだやうに目を眸《みは》つた。いつもは、冷然と澄してゐる母の態度に、明かな狼狽が見えてゐた。夕暗の中ではあつたが、美しい眼が、異様に光つてゐるのが、美奈子にも気が付いた。
美奈子も、駭いて相手を見た。母をこんなに駭かせる相手は、一体何だらうかと思ひながら。
一条の光
一
相手は、まだ三十になるかならない紳士だつた。金縁の眼鏡が、その色白の面《おもて》に光つてゐた。純白な背広が、可なりよく似合つてゐた。彼は一人では
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