七
「お関所の歴史なんか、今夜ぢやなくてもいゝぢやないの。」
瑠璃子は、美奈子が、再度図書室へ行かうと云ふのを聴くと、少しじれ[#「じれ」に傍点]たやうに、さう云つた。
「何うして妾《わたし》と一緒に行くのが、お嫌ひなの。美奈さんも、青木さんも、今夜に限つて何うしてそんなに煮え切らないの。」
瑠璃子は、青年の火のやうな憤怒も、美奈子の苦衷も、何も分らないやうに、平然と云つた。
「ねえ! 美奈さん、お願ひだから行つて下さいね。貴女が、行きたがらないものだから、青木さんまでが、出渋るのですわ。ねえ! さうでせう、青木さん!」
弱い兎を、苛責《いぢ》める牝豹か何かのやうに、瑠璃子は何処までも、皮肉に逆に逆に出るのであつた。美奈子は、青年の顔を見るのに堪へなかつた。青年がどんなに怒つてゐるか、また美奈子がゐるために、その怒《いかり》を少しも洩すことが出来ない苦しさを察すると、美奈子は気の毒で、顔を背けずにはゐられなかつた。
瑠璃子には、青年の憤怒などは、眼中にないやうだつた。それでも、暫くしてから、青年をなだめ[#「なだめ」に傍点]るやうに云つた。
「さあ! 三人で機嫌よく行かうぢや
前へ
次へ
全625ページ中557ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング