怪譚の中の少女のやうに、美奈子の心は、あさましい駭きで一杯だつた。
自分に、優しい母を考へると、彼女は母を恨むことは出来なかつた。が、あさましかつた。恥かしかつた。恨めしかつた。
母と青年とから、逃れて来たものの、美奈子は本当に逃れてゐるのではなかつた。山中で、怪物に会つて、馳け込んだ家が、丁度怪物の棲家であるやうに、母と青年とから逃れて来ても、彼等に相つづいて、同じ此の部屋に帰つて来るのだつた。
さう思ふと、いつそ美奈子は、此の部屋から逃げ出したかつた。遠く/\|何人《なんぴと》にも見出されない、山の中へ入つて、此の悲しみを何時までも何時までも泣き明したかつた。いな、少くとも此夜|丈《だ》けでも、母と青年との顔を見たくなかつた。母と青年とが、並んで帰つて来るのを見たくなかつた。いな、青年から邪魔物扱ひされてゐる以上、もう部屋に止まりたくなかつた。が、此の部屋を離れて、いな母を離れて、彼女は一人何処へ行くところがあらう。たゞ一人、縋り付く由縁《よすが》とした母を離れて何処《いづこ》へ行くところがあらう。さう思ふと、美奈子の頭には、死んだ父母の面影が、アリ/\と浮んで来た。
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