三
死んだ父母の面影が、浮んで来ると、美奈子は懐しさで、胸がピツタリと閉された。
今の彼女の悲しみと、苦しみを、撫でさすつて呉れる者は、死んだ父母の外には、広い世の中に誰一人ないやうに思はれた。
さう思ふと、亡き父が、あの強い腕《かひな》を差し伸べて、自分を招いてゐて呉れるやうに思はれた。その手は世の人々には、どんなに薄情に働いたかも知れないが、自分に対しては限りない慈愛が含まれてゐた。美奈子は、父の腕が、恋しかつた。父の、その強い腕に抱かれたかつた。さう思ふと、自分一人世の中に取り残されて、悲しく情ない目に会つてゐることが、味気《あぢき》なかつた。
が、それよりも、彼女はこの部屋に止まつてゐて、母と青年とが、何知らぬ顔をして、帰つて来るのを迎へるのに堪へなかつた。何処でもいゝ、山でもいゝ、海でもいゝ、母と青年とのゐないところへ逃れたかつた。彼女は、泣き伏してゐた顔を、上げた。フラ/\と寝台を離れた。浴衣《ゆかた》を脱いで、明石縮の単衣《ひとへ》に換へた。手提を取り上げた。彼女の小さい心は、今狂つてゐた。もう何の思慮も、分別も残つてゐなかつた。たゞ、突き詰めた一途
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