、心|私《ひそ》かに想《おもひ》を寄せてゐた青年から、邪魔物扱ひされてゐたことは、彼女の魂を蹂《ふ》み躙《にじ》つてしまふのに、十分だつた。もう一刻も、止まつてゐることは出来なかつた。逃げ出すために、母達に、見付けられようが、見付けられまいが、もうそんなことは問題ではなかつた。そんなことは、もう気にならないほど、彼女の心は狂つてゐた。彼女は、どんなことがあらうとも、もう一秒も止まつてゐることは出来なかつた。
 彼女は、それでも物音を立てないやうに、そつと椅子から、立ち上つた。立ち上つた刹那から、脚がわな/\と顫へた。一歩踏み出さうとすると、全身の血が、悉く逆流を初めたやうに、身体がフラ/\とした。倒れようとするのをやつと支へた。最後の力を、振ひ起した。わなゝく足を支へて、芝生の上を、静《しづか》に/\踏み占め、椅子から、十間ばかり離れた。彼女は、そこまでは、這ふやうに、身体を沈ませながら辿つたが、其処に茂つてゐる、夜の目には何とも付かない若い樹木の疎林へまで、辿り付くと、もう最後の辛抱をし尽したやうに、疎林の中を縫ふやうに、母達のゐる位置を、遠廻りしながら、ホテルの建物の方へと足を早め
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