青年は、手軽く外されたために、ムツとして黙つたらしかつたが、然し、答そのものは、手答があるので、彼は暫くしてから、口を開いた。
「明後日! 本当に明後日までですか。」
「嘘は云ひませんわ。」
瑠璃子の返事は、殊勝だつた。
「ぢや、そのお返事は何時聴けるのです。」
青年の言葉に、やつと嬉しさうな響きがあつた。
「明後日の晩ですわ。」
瑠璃子の本心は知らず、言葉|丈《だ》けにはある誠意があつた。
「明後日の晩、やつぱり二人切りで、散歩に出て下さいますか。貴女は、何時でも、美奈子さんをお誘ひになる。美奈子さんが、進まれない時でも、貴女は美奈子さんを、いろ/\勧めてお連れになる。僕がどんなに貴女と二人|切《きり》の時間を持ちたいと思つてゐる時でも、貴女は美奈子さんを無理にお勧めになるのですもの。」
聴いてゐる美奈子は、もう立つ瀬がなかつた。彼女の頬には、涙がほろ/\と流れ出した。
二
美奈子さんを連れ過ぎると、青年が母に対して恨んでゐるのを聴くと、もう美奈子は、一刻も辛抱が出来なかつた。口惜しさと、恨めしさと、絶望との涙が、止めどもなく頬を伝つて流れ落ちた。自分が
前へ
次へ
全625ページ中541ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング