子は、自分の名を呼ばれて、ヒヤリとした。それと同時に、母の言葉が、蓮葉《はすは》に乱暴なのを聴いて、益々心が暗くなつた。
 青年は、それでも却々話し出さうとはしなかつた。が、母の気持が可なり浮いてゐるのにも拘はらず、青年が一生懸命であることが、美奈子にも、それとなく感ぜられた。
「さあ! 早くおつしやいよ。一体何の話なの?」
 母は、子供をでも、すかす[#「すかす」に傍点]やうに、なまめいた口調で、三度催促した。
「ぢや、申上げますが、いつものやうに、はぐらか[#「はぐらか」に傍点]して下さつては困りますよ。僕は真面目で申しあげるのです。」
 青年の口調は、可なり重々しい口調だつた。一生懸命な態度が、美奈子にさへ、アリ/\と感ぜられた。
「まあ! 憎らしい。妾《わたし》が、何時|貴君《あなた》を、はぐらか[#「はぐらか」に傍点]したのです。厭な稔さんだこと。何時だつて、貴方《あなた》のおつしやることは、真面目で聴いてゐるではありませんか。」
 さう言つてゐる母の言葉に、娼婦のやうな技巧があることが、美奈子にも感ぜられた。
「貴女《あなた》は、何時もさうなのです。貴女は、何時も僕にさうし
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