るごとく美奈子の耳――その話声を、毒のやうに嫌つてゐる美奈子の耳に、ハツキリと聞えて来た。
「稔さん! 一体何なの? 改まつて、話したいことがあるなんて、妾《わたし》をわざ/\こんな暗い処へ連れて来て?」
 さう言つてゐる母の言葉や、アクセントは、平生の母とは思へないほど、下卑てゐて娼婦か何かのやうに艶《なまめ》かしかつた。而も、美奈子のゐるところでは、一度も呼んだことのない青年の名を、馴々しく呼んでゐるのだつた。かうした母の言葉を聞いたとき、美奈子の心は、止《とゞ》めの一太刀を受けたと云つてもよかつた。今まで、あんなに信頼してゐた母にまで裏切られた寂しさと不快とが、彼女の心を滅茶々々に引き裂いた。
 瑠璃子に、さう言はれても、青年は却々《なか/\》話し出さうとはしなかつた。沈黙が、二三分間彼等の間に在つた。
 母は、もどかしげに青年を促した。
「早く、おつしやいよ! 何をそんなに考へていらつしやるの。早く帰らないといけませんわ。美奈子が、淋しがつてゐるのですもの。歩きながらでは、話せないなんて、一体どんな話なの! 早く言つて御覧なさい! まあ、自烈《じれ》つたい人ですこと。」
 美奈
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