ばいゝとさへ思つた。悲鳴を揚げながら、逃げ出したいやうな気持だつた。が、身体を動かすと母達に気付かれはしないかと思ふと、彼女は、動くことさへ出来なかつた。彼女は、そのまゝ椅子に凍り付いたやうに、身体を小さくしながら、息を潜めて、母達が行き過ぎるのを待つてゐようと思つた。が、あゝそれが何と云ふ悪魔の悪戯《いたづら》だらう! 母達は、だん/\美奈子のゐる方へ歩み寄つて来るのであつた。彼女の心は当惑のために張り裂けるやうだつた。母と青年とが、若《も》し自分を見付けたらと思ふと、彼女の身体全体は、益々顫へ立つて来た。
 が、母と青年とは、闇の中の樹蔭の椅子《ベンチ》に、美奈子がたつた一人蹲まつてゐようとは、夢にも思はないと見え、美奈子のゐる方へ、益々近づいて来た。美奈子は、絶体絶命だつた。母達が気の付かない内に、自分の方から声をかけようと思つたが、声が咽喉にからんでしまつて、何うしても出て来なかつた。が、美奈子の当惑が、最後の所まで行つた時だつた。今まで、美奈子の方へ真直に進んで来てゐた母達は、つと右の方へ外れたかと思ふと、其処に茂つてゐる樹木の向う側に、樹木を隔てゝ美奈子とは、背中合せの椅子
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