は云はなかつた。自分ばかり、何の理由も示さずに、先きへ帰ることなどは、温和しい彼女には思ひも及ばないことだつた。
彼女は止《とゞ》まつて、而《さう》して忍ぶべく決心した。彼女の苦しい辛い境遇に堪へようと決心した。
青年の心が、美奈子にハツキリと解つてからは、彼女は同じ部屋に住みながら、自分一人いつも片隅にかくれるやうな生活をした。
青年と母とが、向ひ合つてゐるときなどは、彼女は、そつと席を外した。その人から、想はれてゐない以上、せめてその人の恋の邪魔になるまいと思ふ、美奈子の心は悲しかつた。
さう気が付いて見ると、青年の母に対する眸が、日一日輝きを増して来るのが、美奈子にもありあり[#「ありあり」に傍点]と判つた。母の一顰一笑に、青年が欣んだり悲しんだりすることが、美奈子にもありあり[#「ありあり」に傍点]と判つた。
が、それが判れば判るほど、美奈子は悲しかつた。寂しかつた。苦しかつた。
一人の男に、二人の女、或は一人の女に、二人の男、恋愛に於ける三角関係の悲劇は、昔から今まで、数限りもなく、人生に演ぜられたかも判らない。が、瑠璃子と青年と美奈子との三人が作る三角関係では、
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