いた。
「お母様は何時まで、あゝして未亡人でいらつしやるのでせうか。」
青年の問は、美奈子が何と答へてよいか分らないほど、唐突《だしぬけ》だつた。彼女は、一寸|答《こたへ》に窮した。
「いや、実はこんな噂があるのです。荘田夫人は、本当はまだ処女なのだ。そして、将来は屹度《きつと》再婚せられる。屹度再婚せられる。僕の死んだ兄などは、夫人の口から直接聴いたらしいのです。が、世間にはいろ/\な噂があるものですから、貴女にでも伺つて見れば本当の事が分りやしないかと思つたのです。」
「妾《わたくし》、ちつとも存じませんわ。」
美奈子はさう答へるより外はなかつた。
「こんなことを言つてゐる者もあるのです。夫人が結婚しないのは、荘田家の令嬢に対して母としての責任を尽したいからなのだ。だから、令嬢が結婚すれば、夫人も当然再婚せられるだらう。かう言つてゐる者もあるのです。」
青年は、ホンの噂話のやうにさう言つた。が、青年の言葉を、噛しめてゐる中に、美奈子は傍《かたはら》の渓間へでも突落されたやうな烈しい打撃を感ぜずにはゐられなかつた。
青年が、自分の結婚のことなどを、訊いた原因が、今ハツキリと分
前へ
次へ
全625ページ中516ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング