間中から、お礼を申上げよう申上げようと思ひながら、ついその儘になつてゐたのです。此間はどうも有難うございました。」
 夕闇に透いて見える彼の白い頬が、思ひ做しか少し赤らんでゐるやうに思はれた。美奈子も相手から、思ひがけもない感謝の言葉を受けて、我にもあらず、顔がほてるやうに熱くなつた。彼女は、青年から礼を云はれるやうな心覚えが、少しもなかつたのである。
「まあ! 何でございますの! わたくし!」
 美奈子は、当惑の目を刮《みは》つた。
「お忘れになつたのですか。お忘れになつてゐるとすれば、僕は愈々《いよ/\》感謝しなければならぬ必要があるのです。お忘れになりましたですか。来る道で僕があんなに自動車に乗ることを厭がつたのを。はゝゝゝゝゝ。自分ながら、今から考へると、余り臆病になり過ぎてゐたやうです。お母様から後で散々冷かされたのも無理はありません。が、あの時は本当に恐かつたのです。妙に気になつてしまつたのです。ベソを掻きさうな顔をしてゐたと、後でお母様に冷かされたのですが、本当にあの時は、そんな気持がしてゐたのです。それに、荘田夫人と来ては、極端に意地がわるいのですからね。僕が恐がれば恐
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