空を振り仰いだ。
早川の対岸に、空を劃《くぎ》つて聳えてゐる、連山の輪廓を、ほの/″\とした月魄《つきしろ》が、くつきりと浮き立たせてゐるのであつた。
相模灘を、渡つて来た月の光が今丁度箱根の山々を、照し初めようとしてゐる所だつた。
「まあ! 綺麗ですこと。」
美奈子もつい感嘆の声を洩した。
「旧の十六日ですね、きつと。いゝ月でせう。空が、あんなによく晴れてゐます。東京の、濁つたやうな空と比べると何《ど》うです。これが本当に緑玉《エメラルド》と云ふ空ですね。」
青年は、心ゆくやうに空を見ながら云つた。美奈子も、青年の眸を追うて、大空を見た。夏の宵の箱根の空は、磨いたやうに澄み切つてゐた。
「本当に美しい空でございますこと。」
美奈子も、しみ/″\とした気持でさう云つた。丁度、今までかけられてゐた沈黙の呪が解かれたやうに。
「やつぱり空気がいゝのですね。東京の空と違つて、塵埃《じんあい》や煤煙がないのですね。」
「山の緑が映つてゐるやうな空でございますこと。」
美奈子も、つい気軽になつてさう云つた。
「さうです。本当に山の緑が映つてゐるやうな空です。」
青年は、美奈子の云つ
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