度道の左側にある理髪店の軒端に[#「軒端に」は底本では「軒瑞に」]佇みながら、若い衆が指してゐる将棋を見てゐる青年の横顔を見付けたのである。
青年に近づく前に、彼女の小さい胸は、どんなに顫へたか分らなかつた。でも、彼女はあり丈《だけ》の勇気で、近づいて行つた。
「茲《ここ》にいらつしたのですか。妾《わたくし》も、散歩にお伴いたしますわ。母は、帰りさうにもありませんですから。」
彼女は、低い小さい声で、途切れ/\に言つた。青年は、駭《おどろ》いて彼女を振り返つた。投げた礫《つぶて》が忘れた頃に激しい水音を立てたやうに、青年は自分の一寸した勧誘が、少女の心を、こんなに動かしてゐることに、駭いた。が、それは決して不快な駭きではなかつた。
「ぢや、お伴しませうか。」
さう言ひながら、青年は歩き初めた。美奈子は、二三尺も間隔を置きながら従つた。夢のやうな幸福な感じが、彼女の胸に充ち満ちて、踏む足も地に付かないやうに思つた。
四
初め、連れ立つてから、半町ばかりの間、二人とも一言も、口を利かなかつた。初めて、若い男性、しかも心の奥深く想つてゐる若い男性とたゞ二人、歩いて
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