ながら、一台の自動車に、ズンズン乗つてしまつた。
 此の時の青年は、可なりみじめだつた。瑠璃子夫人の前では、手も足も出ない青年の容子が、美奈子にも、可なりみじめに、寧ろ気の毒に思はれた。
 彼は屠所の羊のやうに、泣き出しさうな硬ばつた微笑を、強ひて作りながら、美奈子達の後から乗つた。
「そんなにクヨ/\なさるのなら、連れて行つて上げませんよ。」
 夫人は、子供をでも叱るやうに、愛撫の微笑を目元に湛へながら云つた。
 青年は、黙つてゐた。彼は、夫人の至上命令のため、止むなく自動車に乗つたものの、内心の不安と苦痛と嫌悪とは、その蒼白い顔にハツキリと現はれてゐた。臆病などと云ふことではなくして、兄の自動車での惨死が、善良な純な彼の心に、自動車に対する、殊に箱根の――唱歌にもある嶮しい山や、壑《たに》の間を縫ふ自動車に対する不安を、植ゑ付けてゐるのであつた。
 美奈子は、心の中から青年が、気の毒だつた。
 母が故意に、青年の心持に、逆らつてゐることが、可なり気の毒に思はれた。
 自動車が、小田原の町を出はづれた時だつた。美奈子は何気ないやうに云つた。
「お母様。湯本から登山電車に乗つて御覧にな
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