、電車で行つて下さることは出来ないでせうか。兄の惨死の記憶が、僕にはまだマザ/\と残つてゐるのです。兄を襲つた運命が、肉親の僕に、何だか糸を引いてゐるやうに、不吉な胸騒ぎがするのです。何だか、兄と同じ惨禍に僕が知らず識らず近づいてゐるやうな、不安な心持がするのです。」
 青年は、可なり一生懸命らしかつた。が、瑠璃子は青年の哀願に耳を傾けるやうな容子も見せなかつた。彼女は、意志の弱い男性を、グン/\自分の思ひ通《どほり》に、引き廻すことが、彼女の快楽の一つであるかのやうに云つた。
「まあ! 貴君のやうに、さうセンチメンタルになると、いやになつてしまひますよ。妾《わたし》は運命だとか胸騒ぎだとか云ふやうな言葉は、大嫌ひですよ。妾《わたし》は徹底した物質主義者《マテリアリスト》です。電車なんか、あんなに混んでゐるぢやございませんか。さあ、乗りませう。いゝぢやございませんの。自動車が崖から落《おつ》こちても、死なば諸共ですわ。貴君《あなた》、妾《わたし》と一緒なら、死んでも本望ぢやなくて? おほゝゝゝゝゝ。」
 夫人は、奔放にさう云ひ放つと、青年が何《ど》う返事するかも待たないで、美奈子を促し
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