「さうです。たしか美奈子さんより三四年下なのですが、お顔なんかよく知つてゐるのです。此間も『あれが荘田さんのお嬢さんだ』と言ふものですから一寸驚いたのです。僕の妹を御存じありませんか。」
 青年は、初めて親しさうに、美奈子に口を利いた。
「はい、お顔|丈《だけ》は存じてゐますの。」
 美奈子は、口の裡で呟くやうに答へた。が、青年から親しく口を利かれて見ると、美奈子の寂しく傷いてゐた心は、緩和薬《バルサム》をでも、塗られたやうになごんでゐた。今まで、恐ろしく寂しく考へられてゐた避暑地生活に、一道の微光が漂つて来たやうに思はれた。

        七

 それから汽車が、国府津へ着くまで、青年は美奈子に、幾度も言葉をかけた。平素《いつも》妹を相手にしてゐると見えて、その言葉には、女性――殊に年下の女性に対する親しみが、自然に籠つてゐた。青年の一言々々は、美奈子のこじれかからうとした胸を春風のやうに、撫でさするのであつた。美奈子は最初陥つてゐた不快な感情から、いつの間にか、救はれてゐた。自分が、妙にひがんで、嫉妬に似た感情を持つてゐたことを、はしたないとさへ思ひ始めてゐた。
 国府津へ着
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