。さうだ! 箱根へ着いて二三日したら、何か口実を見付けて自分|丈《だ》け帰つて来よう。美奈子は、小さい胸の中でさう決心した。
 丁度、さう考へてゐたときに、
「美奈子さん! 一寸いらつしやい!」
 と、母から何気なく呼ばれた。美奈子は淋しい心を、ぢつと抑へながら、元の座席へ帰つて行つた。顔|丈《だけ》には、強ひて微笑を浮べながら。
「貴女《あなた》! 青木さんと、青山墓地で、会つたことがあるでせう!」
 母は、美奈子が坐るのを待つてさう言つた。青年の顔を、チラリと見ると、彼もニコ/\笑つてゐた。美奈子は、何か秘密にしてゐたことを母に見付けられたかのやうに、顔を真赤にした。
「貴女《あなた》は覚えてゐないの?」
 母は、美奈子をもつとドギマギさせるやうに言つた、
「いゝえ! 覚えてゐますの。」
 美奈子は周章《あわて》て[#「周章《あわて》て」は底本では「周章《あわ》て」]さう言つた。
 美奈子は、青年が自分を覚えてゐて呉れたことが、何よりも嬉しかつた。
「青木さんの妹さんが、よく貴女を知つていらつしやるのですつて。ねえ! 青木さん。」
 夫人は賛成を求めるやうに、青木の方を振り顧つた。
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