母と青年とが、馴々しく話しあつてゐることが、不思議に、彼女の心に苦い滓を掻き乱すのであつた。殊に青年が人目を忍ぶやうに、品川からたゞ一人、コツソリと乗つたことが、美奈子の心を、可なり傷《きずつ》けた。母と青年との間に、何か後暗い翳でもがあるやうに、思はれて仕方がなかつた。
「何《ど》うして、僕が奥さんと一緒に行くことが分つたのでせう。僕は誰にも云つたことはないのですがね。」
 青年は一寸云ひ訳のやうに云つた。
「何|分《わか》つてゐてもいゝのですよ。薄々分つてゐる位が、丁度いゝのですよ。貴君となら、分つてゐてもいゝのですよ。」
 夫人は、軽い媚《こび》を含みながら云つた。
「光栄です。本当に光栄です。」
 青年は冗談でなく、本当に心から感激してゐるやうに云つた。
 母と青年との会話は、自由に快活に馴々しく進んで行つた。美奈子は、なるべくそれを聴くまいとした。が、母が声を低めて云つてゐることまでが、神経のいらだつてゐる美奈子の耳には、轟々たる車輪の、響にも消されずに、ハツキリと響いて来るのだつた。
 母と青年との一問一答に、小さい美奈子の胸は、益々傷けられて行くのだつた。時々母が、
「美
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