た。
 青年は、瑠璃子の右側近く腰を降した。
「貴君《あなた》、大変だつたのよ。今東京駅でね。皆知つていらつしやるのよ。妾《わたし》が今日立つと云ふことを。そればかりでなく貴君が一緒だと云ふこと迄知つていらつしやるのよ。だから、極力打ち消して置いたのよ。若し青木さんが一緒だつたら、その償ひとして皆さんを箱根へ御招待しますつて。それでも皆善人ばかりなのよ、おしまひには妾《わたし》の云ふことを信じてしまつたのですもの。だから、妾《わたし》が云はないことぢやないでせう。品川か新橋か孰《どち》らかでお乗りなさいと。妾《わたし》、貴君が妾《わたし》の云ふことを聴かないで、ひよつくり東京駅へ来やしないかと思つて、ビク/\してゐましたの。」
 夫人は、弟にでも話すやうに、馴々しかつた。青年は姉の言葉をでも、聴いてゐるやうに、一言一句に、微笑しながら肯いた。
 それを、黙つて聴いてゐる美奈子の心の中に、不思議な不愉快さが、ムラ/\と湧いて来た。それは彼女自身にも、一度も経験したことのないやうな、不快な気持だつた。彼女は、母に対して、不快を感じてゐるのでなく、青年に対して、不快を感じてゐるのでなく、たゞ
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