い青年が――東京駅で待つてゐるやうだつた。而も母は、今そのことをきつぱり打ち消してゐる。
美奈子は安心したやうな、而も失望したやうな妙な心持の混乱に悩んでゐた。
汽車が出るまで、到頭青木は姿を、見せなかつた。
四
汽車が動き初めても、青木の姿は、到頭見えなかつた。
「それ御覧なさい! 疑ひはお晴れになつたでせう!」
夫人は、車窓から、その繊細な上半身を現しながら、見送つてゐる人達に、さうした捨台辞《すてぜりふ》を投げた。
男性達が、銘々いろ/\な別辞を返してゐる裡に、汽車は見る/\駅頭を離れてしまつた。
「まあ! うるさいたらありはしないわ。こんな小旅行《トリップ》の出発を、わざ/\見送つて呉れたりなどして。」
夫人は美奈子に対する言ひ訳のやうに呟きながら席に着いた。
母を囲む男性達が、青木の同行を気にかけてゐる以上に、もつと気にかけてゐたのは美奈子だつた。その人と一緒に汽車に乗つたり、一緒に宿屋に宿つたり、同じ食卓に着いたりすることを考へると、彼女の小さい心は、戦いてゐたと云つてもよかつた。それは恐ろしいことであり、同時に、限りなき歓喜でもあつたのだ
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