」
「奥さん! そんなことは、証拠になりませんよ。発車間際に姿を現して、我々がアツと言つてゐる間に、汽笛一声発車してしまふのぢやありませんか。貴女《あなた》のなさることは、大抵そんなことですからね。」
此の内で、一番年配らしい三十二三の夏の外套を着た紳士が、始めて口を入れた。
「御冗談でございませう! 富田さん。青木さんをお連れするのだつたら、さうコソ/\とはいたしませんよ。まさか、貴君が赤坂の誰かを湯治に連れていらつしやるのとは違つてゐますから。」
瑠璃子夫人の巧みな逆襲に、みんなは声を揃へて哄笑した。富田と呼ばれた紳士は苦笑しながら言つた。
「まあ、青木君の問題は、別として、僕も、近々箱根へ行かうと思つてゐるのですが、彼方《あちら》でお訪ねしても、介意《かま》ひませんか。」
瑠璃子夫人は、微笑を含みながら、而も乱麻を断つやうに答へた。
「いゝえ! いけませんよ。此の夏は男禁制! 誰かの歌に、こんなのが、あるぢやありませんか。『大方の恋をば追はず此の夏は真白草花白きこそよけれ』妾《わたくし》も、さうなのよ、此の夏は、本当に対人間の生活から、少し離れてゐたいと思ひますの。」
「と
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