三
「まあ! 青木さんを連れて行くつて。嘘ばつかり。青木さんなんか、まだ兄さんの忌《いみ》も明けてゐない位ぢやありませんか。」
瑠璃子夫人は、事もなげに打消した。美奈子は、母が先刻自分に肯定したことを、かうも安々と、打ち消してゐるのを聴いたとき、内心少からず驚いた。自分に対しては可なり親切な、誠意のある母が、かうも男性に向つては白々しく出来ることが、可なり異様に聞えた。
「忌《いみ》もまだ明けないだらうつて。奥さんにも似合はない旧弊なことを仰《おつ》しやるのですね。忌|位《ぐらゐ》明けなくつたつて、いゝぢやありませんか。殊に、奥さんと一緒に行くんだつたら、死んだ兄さんだつて、冥土で満足してゐるかも知れませんよ。死んだ青木淳君の瑠璃子夫人崇拝は人一倍だつたのですからね。あの男の貴女《あなた》に対する態度は、狂信に近かつたのですからね。」
長髪の画家が、一寸皮肉らしく言つた。
夫人は、美しい顔を、少し曇らせたやうだつたが、直ぐ元の微笑に帰つて、
「まあ! 何とでも仰《おつ》しやいよ。でも青木さんのいらつしやらないのは本当よ。論より証拠青木さんは、お見えにならないぢやありませんか。
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