と、美奈子の胸は更に烈しく波立つた。押へ切れぬ希望と妙な不安とが、胸一杯に充ち満ちた。
箱根行
一
「御機嫌よく行つてらつしやいませ。」
玄関に並んだ召使達が、口を揃へて見送りの言葉を述べるのを後にして、美奈子達の乗つた自動車は、門の中から街頭へ、滑かにすべり出した。
乾燥した暑い日が、四五日も続いた七月の十日の朝だつた。自動車の窓に吹き入つて来る風は、それでも稍《やゝ》涼しかつたが、空には午後からの暑気を思はせるやうな白い雲が、彼方此方にムク/\と湧き出してゐた。
美奈子は、母と並んで腰をかけてゐた。前には、母の気に入りの小間使と自分の附添の女中とが、窮屈さうに腰をかけてゐた。
美奈子は、母から箱根行のことを聴かされてから、母が一緒に伴つて行くと云ふ青年のことが、絶えず心にかゝつてゐた。が、母の方からはそれ以来、青年のことは何とも口に出さなかつた。母が口に出さない以上、美奈子の方から切り出して訊くことは、内気な彼女には出来なかつた。
出立の朝になつても、青年の姿は見えなかつた。美奈子は、母が青年を連れて行くことを中止したのではないかとさへ思つた。さ
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