子は、これまでの通り、美奈子に取つて母のやうな優しさと姉のやうな親しみとを持つてゐた。が、美奈子は母に、ホンのかすかではあるが、今までに持たなかつたやうな感情を持ち初めてゐた。母の若々しい神々しいほどの美貌が、何となく羨ましかつた。母が男性と、殊にあの青年と、自由に交際《つきあ》つてゐるのが、何となく羨ましいやうに、妬ましいやうに思はれて仕方がなかつた。が、美奈子はさうしたはしたない[#「はしたない」に傍点]感情を、グツと抑へ付けることが出来た。彼女は平素《いつも》の初々しい温和《おとな》しい美奈子だつた。
 順々に運ばれる皿数《コーセス》の最後に出た独活《アスパラガス》を、瑠璃子夫人がその白魚のやうな華奢な指先で、掴《つま》み上げたとき、彼女は思ひ出したやうに美奈子に云つた。
「あゝさう/\! 美奈さんに相談しようと思つてゐたの。貴女此夏は何処へ行きませうね。四五日の裡に、何処かへ行かうと思つてゐるの。今日なんかもう可なり暑いのですもの。」
「妾《わたし》、何処だつていゝわ。貴女《あなた》のお好きなところなら何処だつていゝわ。」美奈子は、慎ましくさう云つた。
「軽井沢は去年行つたし、
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