してしまつたのだ。
 今までは、一度も心に止めたことのない客間《サロン》の方が、絶えず心にかゝつた。青年が母に対してどんな話をしてゐるのか、母が青年にどんな答をしてゐるかと云つたやうなことを、想像することが、彼女を益々不安にさせ、いら/\させた。
 彼女は、到頭部屋の中に、ぢつと坐つてゐられないやうになつて、広い庭へ降りて行つた。気を紛らすために、庭の中を歩いて見たい為だつた。が、庭の中を彼方此方と歩いてゐる裡に、彼女の足は何時の間にか、だん/\洋館の方へ吸ひ付けられて行くのだつた。彼女の眸は、時々我にもあらず、客間《サロン》の縁側《ヴェランダ》の方へ走るのを、何うともすることが出来なかつた。その縁側《ヴェランダ》からは、時々思ひ出したやうに、華やかな笑ひ声が外へ洩れた。若い男性の影が、チラホラ動くのが見えた。が、その人らしい姿は、到頭見えなかつた。
 大抵は、その日の訪問客を引き止めて、華美《はで》に晩餐を振舞ふ瑠璃子であつたが、その日は何うしたのか、夕方が近づくと皆客を帰してしまつて、美奈子とたつた二人|限《き》り、小さい食堂で、平日のやうに差し向ひに食卓に就いた。
 その夜の瑠璃
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