分か三分かの間である。動き出せば直ぐ止る、わづかの距離であつた。美奈子は、もつと/\此の電車に乗つてゐたかつた。さうだ! 青年の乗つてゐる限り、此の電車に乗つてゐたいと思つた。
 彼女は、女中をそれとなく先へ降して、神田辺に買物があると云つて、此のまゝずつと乗り続けてゐようかと思つたりした。が、さうした大胆な計画をなすべく、彼女はあまりに純だつた。
 その内に、電車はもう半蔵門の停留場を離れてゐた。英国大使館の前の桜青葉の間を、勢よく走つてゐた。美奈子は電車が、平素《いつも》の二倍もの速力で走つてゐるやうに思つた。彼女は、最後の一瞥を得ようとして、思ひ切つて顔を持ち上げた。青年は、此の前見たときと同じやうな白い飛白《かすり》の着物に絽セルらしい袴を穿いてゐた。近く見れば見るほど、貴公子らしい凜々しい面影が、美奈子の小さい胸を圧し付けるやうに、迫つて来るのだつた。美奈子は、此の青年と向ひ合つて坐りながら、もつともつと九段までも両国までも、いな/\もつと遥かに遥かに遠い処まで、一緒に乗つて行きたいやうな、切ない情熱が、胸に湧いて来るのを何うすることも出来なかつた。このまゝ別れてしまふと、ま
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