つたかと思ふと、戞々《かつ/\》たる馬蹄の響がして、霊柩を載せた馬車が遺族達に守られて、斎場へ近づいて来るのだつた。

        二

 霊柩を載せた馬車を先頭に、一門の人々を載せた馬車が、七八台も続いた。信一郎は、群衆を擦り脱けて、馬車の止まつた方へ近づいた。次ぎ/\に、馬車を降りる一門の人々を、仔細に注視しようとしたのである。
 霊柩の直ぐ後の馬車から、降り立つたのは、今日の葬式の喪主であるらしい青年であつた。一目見ると、横死した青年の肉親の弟である事が、直ぐ判つた。それほど、二人はよく似てゐた。たゞ学習院の制服を着てゐる此青年の背丈が、国府津で見たその人の兄よりも、一二寸高いやうに思はれた。
 その次ぎの馬車からは、二人の女性が現はれた。信一郎は、その孰《いづ》れかゞ瑠璃子と呼ばれはしないかと、熱心に見詰めた。二人とも、死んだ青年の妹であることが、直ぐ判つた。兄に似て二人とも端正な美しさを持つてゐた。年の上の方も、まだ二十を越してゐないだらう。その美しい眼を心持泣き脹して、雪のやうな喪服を纏うて、俯きがちに、しほたれて歩む姉妹の姿は、悲しくも亦美しかつた。
 それに、続いて
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