く思はれてゐるG男爵だつた。その外首相の顔も見えた。内相もゐた。陸相もゐた。実業界の名士の顔も、五六人は見覚えがあつた。が、見渡したところ信一郎の知人は一人もゐなかつた。彼は、受附へ名刺を出すと、控場の一隅へ退いて、式の始まるのを待つてゐた。
 誰も彼に、話しかけて呉れる人はなかつた。接待をしてゐる人達も、名士達の前には、頭を幾度も下げて、その会葬を感謝しながら、信一郎には、たゞ儀礼的な一揖を酬いただけだつた。
 誰からも、顧みられなかつたけれども、信一郎の心には、自信があつた。千に近い会葬者が、集まらうとも、青年の臨終に侍したのは、自分一人ではないか。青年の最期を、見届けてゐるのは、自分一人ではないか。青年の信頼を受けてゐるのは自分一人ではないか。その死床に侍して介抱してやつたのは、自分一人ではないか。もし、死者にして霊あらば、大臣や実業家や名士達の社交上の会葬よりも、自分の心からな会葬を、どんなに欣ぶかも知れない。さう思ふと、信一郎は自分の会葬が、他の何人《なんぴと》の会葬よりも、意義があるやうに思つた。彼はさうした感激に耽りながら、ぢつと会葬者の群を眺めてゐた。急に、皆が静かにな
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