だ。その中《なか》には、また屹度《きつと》あの人達と顔を合せる機会があるに違ひない。屹度機会が来るに違ひない。
「お嬢様! 何方《どつち》へ行《い》らつしやるのでございます?」
 さう云つて呼び止める女中の声に驚いて、美奈子が我に帰ると、美奈子は右に折れるべき道を、ズン/\前へ、出口のない小径の方へと、進んでゐるところだつた。
「其方《そちら》へいらつしやいますと突き当りでございますよ。」
 さう言ひながら、女中は笑つた。
「おや! おや! 妾《わたし》ぼんやりしてゐたわ。」
 美奈子も、てれかくしに笑つた。
 二人は何時の間にか霞町の方へ近づいてゐた。
「霞町から乗つて、青山一丁目で乗換へすることにいたしませうか。」
 女中の発議に委したやうに、美奈子は黙つて霞町の方へ、だら/\した坂を降つてゐた。心の中では、まだ一心に、その妹の顔と兄の顔とを等分に考へながら。
 塩町行の電車の昇降台の棒に、美奈子が手をかけたとき、彼女は低く、
「あゝさう/\!」と、自分自身に言つた。
 彼女は、やつと妹を思ひ出した。お茶の水で確か三年か二年か下の級にゐた人だ。さうさう! 先刻《さつき》見たときバン
前へ 次へ
全625ページ中458ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング