にほひ》。
 お墓参りの後の、澄み渡つたやうな美奈子の心持は、忽ち掻き擾《みだ》されてしまつた。彼女ののんびりとしてゐた歩調は、急に早くなつた。彼女の心は、強い力で後へ引かれながら、身体|丈《だ》けは、彼女の意志とは反対に、前へ/\と急いでゐた。丁度、恐ろしいものからでも逃れるやうに。
 彼女の擾れてゐた心が、だん/\和んで来るのに従つて、先刻妹の方から受けた挨拶のことを、考へてゐた。先方は、自分を知つてゐるに違《ちがひ》ない。少くとも、妹の方|丈《だけ》は、自分を知つてゐて呉れるに違ない。が、さうは思つて見るものの、妹が誰であるか何うしても思ひ出されなかつた。
 が、通り過ぎた時に、チラと見た所に依ると、二人が、つい近く失つたばかりの肉親のお墓詣りをしてゐたこと丈《だけ》は、明かだつた。幾本も立つてゐる卒都婆が、どれもこれも墨の匂が新しかつた。
 美奈子は、知人の家で、最近に不幸のあつた家を、それからそれと数へて見た。が、何《ど》うしても兄妹の所属は判らなかつた。
 妹の方が、人違をしたのかも知れない。さう思ふことは美奈子は、何だか淋しかつた。やつぱり、此方《こちら》が思ひ出せないの
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