ながら、それに応じた。が、相手が誰だか、容易に思ひ出せなかつた。長い睫に掩はれたその黒い眸を、何処かで見たことのあるやうに思つた。が、それが何《ど》うしても美奈子には思ひ出せなかつた。
「人違ひぢやないのかしら。」
 さう思つて、美奈子は一寸顔を赤くした。
 が、美奈子がその墓地の前を通り過ぎようとして、二度《ふたたび》その兄妹らしい男女を見返つたとき、今度は兄の方が、美奈子の方を振り返つてゐた。恐らく妹が、挨拶したので、一寸した興味を持つた為だらう。美奈子の眸は、当然その青年の顔を、正面から見た。その刹那美奈子は、若い男性と、咄嗟に顔を見合はした恥かしさに、弾かれたやうに、顔を元に返した。
 それはホンの一瞬の間だつた。が、その一瞬の間に一目見た青年の顔は、美奈子の心に、名工が鑿を振つたかのやうに、ハツキリと刻み付けられてしまつた。
 彼女は、今まで異性の顔に、自分から注意を向けたことなどは、殆どなかつた。が、今見た青年の顔は、彼女の注意の凡てを、支配するやうな不思議な魅力を持つてゐた。
 白いくつきりとした顔、妹によく似た黒い眸、凜々しく引きしまつた唇、顔全体を包んでゐる上品な匂《
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