ゐる女性の生きた死骸のために復讐をしてやりたいと思ひますの。本当に妾《わたくし》だつて、生きた死骸のお仲間かも知れませんですもの。」
さう云ひながら、夫人は一寸頭をうなだれた。緊張し切つてゐた夫人の顔に、悲しみの色が、サツと流れた。
六
物凄いと云つてよいか、死身と云つてよいか、兎に角、烈々たる夫人の態度は、信一郎の心を可なり振盪した。
これほどまで、深い根拠から根ざしてゐる夫人の生活を、慣習的な道徳の立場から、非難しようとした自分の愚かさを、信一郎はしみじみと悟ることが出来た。夫人をして彼女の道を行かしめる外はない。縦令《たとひ》、その道が彼女を、どんな深淵に導かうとも、それは彼女に取つて覚悟の前の事に違ひない。多くの男性を飜弄した報いのために、縦令彼女自身を亡ぼすとも、それは、彼女としては、主義に殉ずることであり、男性に対する女性の反抗の犠牲となることなのだ。
「いや! 奥さん、僕は貴女のお心が、始めて解つたやうに思ひます。僕はそのお心に賛成することは出来ませんが、理解することは出来ます。貴女に忠告がましいことを言つたのを、お詫《わび》します。貴女が、一身
前へ
次へ
全625ページ中446ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング