くつても、又なにか別なことで、直ぐ自殺してしまふ方ですもの。」
信一郎は、夫人の言葉を聴いてゐる中に、それを夫人の捨鉢な不貞腐《ふてくされ》の言葉ばかりだとは、聞きながされなかつた。彼は、その美しい夫人の裡に、如何なる男性にも劣らないやうな、鋭い理智と批判とを持つた一個の新しい女性、如何なる男性とも、精神的に戦ひ得るやうな新しい強い女性を認めたのである。
彼の夫人に対する憎悪は、三度四度目に、又ある尊敬に変つてゐた。旧道徳の殻を踏み躙つてゐる夫人を、古い道徳の立場から、非難してゐた自分が、可なり馬鹿らしいことに気が付いた。
夫人の男性に対する態度は、彼女の淫蕩な動機からでもなく、彼女の妖婦的な性格からでもなく、もつと根本的な主義から思想から、萌してゐるのだと思つた。
「妾《わたくし》、男性がしてもよいことは、女性がしてもよいと云ふことを、男性に思ひ知らしてやりたいと思ひますの。男性が平気で女性を弄ぶのなら、女性も平気で男性を弄び得ることを示してやりたいと思ひますの。妾《わたくし》一身を賭して男性の暴虐と我儘とを懲《こら》してやりたいと思ひますの。男性に弄ばれて、綿々の恨みを懐いて
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