ません。貴君《あなた》の眼の前にゐる女性なども、案外にもさうした生きた死骸の一つだか分りませんよ。」
夫人の美しい眸は爛々と輝いた。その美しい声は、烈しい熱のために、顫へてゐた。
「男性は女性を弄んでよいもの、女性は男性を弄んでは悪いもの、そんな間違つた男性本位の道徳に、妾《わたくし》は一身を賭しても、反抗したいと思つてゐますの。今の世の中では、国家までが、国家の法律までが、社会のいろ/\な組織までが、さうした間違つた考へ方を、助けてゐるのでございますもの。御覧なさい! 世の中には、お女郎屋だとか待合だとかお茶屋だとか、男性が女性を公然と弄ぶ機関が存在してゐるのですもの。さう云ふものを国家が許し、法律が認めてゐるのですもの。また、さう云ふものが存在してゐる世の中に、住みながら、教育家とか思想家などと云ふ人達が、晏然として手を拱《こまぬ》いてゐるのですもの。女性ばかりに、貞淑であれ! 節操を守れ! 男性を弄ぶな! そんなことを、幾何《いくら》口を酸くして説いても、妾《わたくし》はそれを男性の得手勝手だと思ひますの。男性の我儘だと思ひます。丁度此の青木さんのノートが、男性の我儘を示してゐ
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