若《も》し、男性を弄ぶ女性を、純真な男性の怒りが、粉微塵に砕くとしたなら、今の世間の大抵の男性は、純真な女性の怒りに依つて、粉微塵に砕かれる資格があるでせう、貴君《あなた》だつて、貴君《あなた》の純真な奥さんのお心の前に、少しも、恥かしいと思ふことはありませんか、貴君《あなた》が妾《わたくし》の良心にお訴へになつたやうに、妾《わたくし》も貴君《あなた》の良心に、それを伺ひたいと思ひますの。」
夫人の態度は、明《あきらか》に熱してゐた。赤く熱すると云ふよりも、白く冷たく而も極度に熱してゐた。
「女性が男性を弄ぶと貴君《あなた》方男性は、直ぐ妖婦だとか毒婦だとか、あらん限りの悪名を浴びせかける。貴君などは、眼の色を変へてまで、叱責なさらうとする。が、御覧なさい! 世間の男性がどんなに女性を弄んでゐるかを。女性が男性を弄ぶに致しましたところで、それは男性の浮動し易い心を、弄ぶのに過ぎないぢやありませんか。男性が女性を弄ぶ場合は、心も肉体も、名誉も節操も、蹂躙し尽すぢやありませんか。眼にこそ見えませんが、この世間には男性に弄ばれた女性の生きた惨《むご》たらしい死骸が、幾つ転がつてゐるかも分り
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