顫ひ戦かないのですか。貴女の戯れの作つた恐ろしい結果に戦慄しないのですか。」
 信一郎は、可なり興奮して突きかゝつた。
 が、夫人は冷然として、氷の如く冷かに黙つてゐた。
「奥さん! 黙つていらしつては分りません。貴女は! 貴女は此ノートを読んで何ともお考へにならないのですか。」
 信一郎は、いらだつて叫んだ。
「考へないことはありませんわ。」
 彼女の沈黙が冷かな如く言葉そのものも冷かであつた。
「お考へになるのなら、そのお考へを承はらうぢやありませんか。」
 信一郎は益々いらだつた。
「でも、死んだ方に悪いのですもの。」
「死んだ方に悪い! 貴女はまだ死者を蔑まうとなさるのですか。死者を誣《し》ひようとなさるのですか。」
 信一郎は火の如く激昂した。
 その激昂に、水を浴びせるやうに夫人は云つた。
「でも、妾《わたくし》、此ノートを読んで考へましたことは、青木さんも普通の男性と同じやうに、自惚れが強くて我儘であると云ふこと丈《だけ》ですもの。」

        四

 夫人の言葉は、信一郎を唖然たらしめた。彼は呆気に取られて、夫人の美しい冷かな顔を見詰めてゐた。どんな妖婦でも、昔
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