、恐らく今の場合の夫人の心を云ふのだらう。鬼が出るか蛇が出るか分らないそのノートを、受け取りながら、一糸|紊《みだ》れたところも、怯《ひる》んだところも見せなかつた。
「おや、青木さんのノートでございますのね。」
 夫人は、平然と云ひながら、最初の頁《ページ》から繰り初めた。繰つてゐるその白い手は、落着きかへつてゐる。
 が、信一郎は思つた。今に見ろ、どんなに白々しい夫人でも、血で書いた青木淳の忿恨の文字に接すると、屹度良心の苛責に打たれて、女らしい悲鳴を挙げる。彼女の孔雀の如き虚飾の驕りを擾されて、女らしく悔恨に打たれるに違ひない。さう思ひながら、頁《ページ》を繰る夫人の手許と、やゝ蒼んでゐる美しい面から、一瞬も眼を放たず、ぢつと見詰めてゐた。
 その裡に、夫人はハタと、青木淳が書き遺した文字を見付けたらしい。遉《さすが》に美しい眸は、卓の上に開かれたノートの頁《ページ》の上に、釘付にされたやうに、止つてしまつた。
 美しい面が、最初薄赤く興奮して行つた。が、それがだん/\蒼白になり、唇の辺りが軽く痙攣するやうに動いてゐた。
 夫人が、深い感動を受けたことは、明かだつた。信一郎は、今
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