の受け止めた痛みに依つて、貴女の心を浄めていたゞきたいと思ふのです。さうして、男性に対する貴女の危険な戯れを、今日限り廃《よ》していたゞきたいと思ふのです。それが青木君の死に対する貴女のせめてもの償ひです。僕が、先刻貴女のお戯れの相手をするのは危険だと云つたのはかう云ふ意味です。青木君の場合はまだ独身ですから、貴女の戯れの犠牲になるものは一人で済むのですが、僕のやうな既婚者の場合は被害者が複数ですからね。」
 信一郎の興奮は、彼を可なりな雄弁家にしてしまつた。夫人はと見ると、遉《さすが》に彼の言葉が一々肺腑を衝いてゐると見えて、うなだれ気味に、黙々と聴いてゐた。信一郎は、自分の心が、少しでも夫人の心を悔い改めしめてゐるかと思ふと、内心ある感激を感ぜずにはゐられなかつた。さうだ! 此の美しき女性をたゞ恥かしめる丈《だけ》が、能ではない。自分の言葉に依つて、夫人の心を、少しでも浄くし改めてやりたいと思つた。
「いや! 奥さん。僕は何も貴女《あなた》に恩怨があるのではありません。恩怨がないばかりでなく、ある点では貴女を敬慕してゐるものです。貴女のその秀れた美しさと、貴女の教養や趣味に対して、
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