心から敬慕してゐるものです。が、僕は貴女がさうした天分や教養を邪道に使つてゐるのを見ると、本当に心が暗くなるのです。僕は青木君の為にばかりでなく、貴女自身のために、僕の云つたことをよく玩味していたゞきたいと思ふのです。」
かう信一郎が、述べ来つた時、今まで傾聴してゐるやうな態度をしてゐた夫人は、つと頭を上げた。
「あの、お言葉中で恐れ入りますが、御忠告なら、御免を蒙りたいと思ひます。御用事|丈《だけ》を承はる筈であつたのでございますから。」
鋼鉄のやうな凜とした冷たさが、その澄んだ声の内に響いてゐた。
二
『御忠告ならば、御免を蒙る。』と、夫人がきつぱりと云ひ放つのを聴くと、信一郎は夫人に対して、最後の望みを絶つた。青木淳は、『僅に残つてゐる良心』と、書いてゐる。が、僅に残つてゐる良心どころか良心らしいものは、片《かけら》さへ残つてゐない。女らしい、つゝましい心の代りに、そこに翼を拡げてゐるものは、恐ろしい吸血鬼《ヴァンパイヤ》である。純真な男性の血を好んで嗜なむ怪物である。夫人の良心に訴へて、少しでも彼女を、いゝ方に改めさせてやらうと思つたのは、悪魔に基督《キ
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