しい夫人であるとは云へ、男性たるものが、かうも手軽に、人形か何かのやうに飜弄せられることは、何うにも堪らないことだと思つた。今こそ全力を尽して彼女と、戦ふべき日であると思つた。激怒のために、波立つ胸を、彼はぢつと抑へ付けながら云つた。
「奥さん! 折角ですが、僕にはまだ帰られない用事があります。」
信一郎の言葉は、可なり顫へを帯びてゐた。
「おや! 御用事。それぢや直ぐ承はらうぢやありませんか。妾《わたくし》、またこんな部屋には、一刻もお止まりになるお心はなくなつたのだらうと思つてゐました。」
夫人は、凄いほどに、落着いてゐた。
信一郎は、蒼白《まつさを》になりながら、懸命に冷静な態度を失ふまいとした。
「奥さん! 帰るときが来れば、お指図を待たなくつても帰ります。が、只今伺つたのは、貴女のお手紙の為ばかりぢやないのです。僕がどんなに軽薄な人間でも、一度席を蹴つて帰つた以上、貴女のお召状|丈《だけ》で、ノメ/\とやつては来ません。」
「おや! それでは、妾《わたくし》はその点でも飛んだ思違ひをしてゐましたのね。」
夫人は、針のやうな皮肉を含みながら、冷やかに笑つた。信一郎はいら
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