まれたとすると、その男が飛んだ目に逢つたやうに、僕も何時かは、飛んだ目に逢ひさうです。はゝゝゝ。」
 信一郎は、懸命な勇気を以て、云ひ終ると調子外れの笑ひ方をした。彼は烈しい興奮のために、妙に上ずツてしまつてゐたのである。
 夫人の顔色が、一寸変つた。が、少しも取り擾す容子はなかつた。彼女は、信一郎の顔を、ぢつと見詰めて居たが、憫笑するやうな笑ひを、頬の辺《あたり》に浮べると、一寸腰を浮かして、傍の卓の上の呼鈴を押しながら云つた。
「貴君《あなた》と妾《わたくし》とは、やつぱり縁なき衆生だつたのですわね。やつぱりあれつ切りにして置けばよかつたのですわね。妾《わたくし》の思ひ違ひよ。貴君《あなた》を、スツカリ見損つてゐたのですわね。貴君《あなた》の躊躇や、臆病を、妾《わたくし》反対に解釈してゐたのですわ。妾《わたくし》男性の中で臆病な方が、一等嫌ひなのですわ。差し出された女の唇に、接吻を与へるほどの勇気さへないやうな男性が、一等嫌ひなのでございますよ。おほゝゝゝゝ。妾《わたくし》自身、御覧の通《とほり》のお転婆でございますから、やつぱり強い男性の方が、一等好きなのでございますよ。」
 信
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