るだけ面《おもて》を背けながら云つた。
「いや! 貴女《あなた》のお心が、分らないのではありません。僕を、真のお友達として、多くの男性から選んで下さる。それは僕として、光栄です。が、奥さん! 僕は貴女から選まれると云ふことが可なり危険なことであるやうな気がするのです。僕は、安穏な家庭の幸福で、満足してゐる平凡な人間です。何うか僕を、このままに残して置いて下さい!」
 信一郎の語気は、可なり強かつた。
「まあ! 何と云ふことを仰しやるのです。妾《わたくし》を、爆弾か何かのやうに、触ることさへ、お嫌ひだと云ふのですね。」
 夫人は、半ば冗談のやうに、云はうとしたが、信一郎の心の中の敵意を、アリ/\と感じたと見え、先刻までの夫人とは、丸切《まるきり》違つたやうな鋭さが、その美しさの裏に、潜み初めてゐた。
「いや! 奥さん、こんなことを申し上げては、失礼かも知れませんが、僕は貴女に選まれて飛んだ目にあつたある男性のことを知つてゐるのです。その男も、真面目な初心《うぶ》な男でしたから、僕が貴女に選まれたのと、同じやうな意味で、貴女に選まれたのではないかと思ふのです。若《も》し、同じやうな意味で選
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