、夫人の顔が、遉《さすが》に鋭く緊張した。
「あら、貴君《あなた》までが、そんなことを考へていらつしやるの。妾《わたくし》が貴君の家庭を擾すやうな女だと思つていらつしやるの。貴君にも、やつぱり妾《わたくし》の真意が分つて下さらないのですわね。妾《わたくし》が、何を求めてゐるかが、やつぱり分つて下さらないのですわね。妾《わたくし》は、妾《わたくし》の周囲の戯恋者には飽き/\したと申してゐるではありませんか。妾《わたくし》は戯恋の相手ではなく、本当のお友達が欲しいのです。本当の男性らしい男性のお友達が欲しいのです。妾《わたくし》が、この方こそと思つてお選みした貴君からそんな誤解を受けるなんて、妾《わたくし》には忍びがたい恥辱ですわ。」
さう云つてゐる夫人の顔には、もうあの美しい微笑は浮んでゐなかつた。少しく、忿怒を帯びた顔は、振ひ付きたいやうな美しさで、輝いてゐた。
美しい夫人の顔に、忿怒の色が浮ぶのを見ると、信一郎は心の中で、可なりタヂ/\となつた。が、彼は自分のため、青木淳のため、また夫人その人のためにも、夫人の妖婦的な魂と、戦はねばならぬと決心した。彼は、夫人の美しい顔から、出来
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